きのむくまま
2012年2月2日 日本経済新聞 夕刊 東京大学名誉教授 和田昭允
“知識と智恵
知識と智恵は違う。それぞれ情報と能力だ。この2つを共演させる妙味を覚えると、勉強、仕事、そして毎日が楽しくなる。
”
知識は書物の文字面、授業、会話などからの情報で、それをそのまま頭脳に貯め込むだけの人は”能(力)無し”である。
智恵は自分の頭で生むものだ。どんなに素晴らしい智恵も、読んだり聴いたりしたものは単なる知識に過ぎない。その知識たちを脳の整理棚から選びだし編成して「問題解決のオーケストラ演奏」を指揮するのが智恵だ。知識は有限だが、智恵は考えを無限に発展させ、新天地を開く。
誰もが知っている知識(言葉)を綴って「古池や……」の句にしたのは、万人が及びもつかない松尾芭蕉の智恵だ。
知識がなければ、湧く智恵は動物的本能だけだ。でも、いくら知識があっても智恵が指揮しないと烏合の衆だから何も生まれない、何も出来ない。
教育は相手を”知識獲得”と”智恵発揮”に夢中にさせれば成功である。僅かな知識でも智恵を出して纏めると、自分ダケの知識になって使える。それが面白くて、もっと知識が欲しくなる。さらに智恵を湧かせたくなる……の循環過程で”智の発展のラセン階段”を楽しく駆け上がらせるのだ。
“智恵のない話”を”ある話”にするには、上手下手はさておき前述の作句がヒントになる。簡単なことである。まず”知識それぞれの意味・性格”と”知識たちの結び付きの相性”をよく感得する。後は最良のグループ編成に向けて試行錯誤(苦吟)し全体最適を図る。ここで、知識を人と読み替えれば、よきリーダーになれる。出来映えは個人の才能による。でも、習練と努力がものを言うのは俳句と同じだ。
2012年2月2日 日本経済新聞 夕刊 東京大学名誉教授 和田昭允